英語にまるわるちょっとしたお話しをお伝えしていきます。

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2011.11.15 夏目漱石

明治の文豪夏目漱石の文学に触れたいと思ったのは、音楽座ミュージカルの次作品『アイ・ラブ・坊ちゃん』の案内が届いてから。今度の舞台公演も、観たいな、観られたらいいな、と願をかけつつ『坊ちゃん」を読み始めた。
 
  親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。

の一節で始まる明治の名作。
 
面白い。
先が気になる・・・ 
 
結局、小説『坊ちゃん』を読み終える頃、東京青山劇場で上演された『アイラブ坊ちゃん』を中学生2人と観に行った。漱石が『坊ちゃん』を書いた11日間の物語。漱石が、書斎で文章を書き上げるシーンと平行して、小説が書かれていく内容が、同時進行で役者さんたちによって演じられていく。漱石が書き止まると、役者さんたちも動きが止まる。何度も息をのむシーンがあった。時は、明治。着物から洋服に変わるとき。舞台の役者さんたちは、着物姿で歌い踊る。 漱石を取り巻く人々が、個性的で何とも魅力的。人間臭さがいい。漱石の苦悩、彼を取り巻く人々の葛藤と愛情。漱石の頭の中、心の中が様々な形で舞台で表現されて。
 
「もっと単純になれよ。」
 
思い悩み、時には壊れてしまいそうになるなる漱石に、親友の子規は言う。
 
「なぜ生きるかではなく、どう生きるか・・・」漱石が舞台の終わりの方で、絞り出すようにしてつぶやく。直球でストーンと心に響いた。
 
舞台『アイ・ラブ・坊ちゃん』の余韻が心に沁みて、その後も続くマイ漱石ブーム。『こころ』、『草枕』と読み進めた。面白い。読ませる。 日本語表現の素晴らしさ、美しさに圧倒される。 芳醇でたおやかな言葉使い、文章表現。あまりの語彙の豊富さに、私の語彙にはない新出日本語も時々あり。日本語って美しいなぁ〜としみじみ感じさせてくれる。

 
『草枕』の冒頭は、聞き覚えのあるこの文章から始まる。
 
  山路を登りながら、こう考えた。
  智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。
兎角に人の世は住みにくい。

 
もう1つ漱石文学に惹かれるのは、作品に登場する主人公たちの人となり。『坊ちゃん』の坊ちゃんも、『こころ』の私も、『草枕』の青年画家も、『三四郎』の三四郎も何だか煮え切らない。ぐずぐず、うじうじ・・・ 恋愛だってなかなかうまくはいかず、イタいっ。こんな文面に思わず、ぷっとにやけてしまう。

 
  三四郎は、近頃女に女に囚われた。恋人に囚われたのなら、却って面白いが、 
  惚れられているんだか、馬鹿にされているんだか、怖がって可いんだか、
  蔑んで余いんだか、廃すべきだか、続けるべきだか訳の分からない囚われ方である。三四郎は忌々しくなった。 
(三四郎)
 
 
んんん・・・じれったいなぁ〜!

 
漱石の小説に登場する主人公は、巷によくある成功物語でも、ポジティブシンキングの自己啓発本でもない。それだけに親近感がわく。わかる、わかる、と共感しては、何だかほっとする。主人公達を通して、自分の弱さやもろさと同調して癒される。 茂木健一郎氏曰く、「降りてしまうこと。文明の圧迫を、ひらりとさけてしまうこと。なんとか、やり過ごすこと。そして、本当の人間の温かさをみつめること。漱石の文学の中には、私たち全員にとっての濃い滋養が詰まっているのだ。」  
 
漱石の生い立ちについて少々・・・
明治維新の前年、江戸の由緒ある家に生まれた金之助(のちに漱石と号する)は、五男三女の末っ子として生まれた。しかし、金之助の出生を歓迎しなかった両親は、生まれるとすぐ古物商に里親に出した。その後、漱石2歳のとき塩原昌乃助・やす夫妻の養子となるも、養父の女性関係で夫妻の結婚は破綻し、実家に引き取られた。金之助7歳のとき。そこから府中1中、大学予備門へ進学、明治23年帝大(現在の東京大学)英文科に入学した。明治26年卒業、大学院在籍のまま東京高師の英語教師を経て、松山の中学校教諭として赴任する。明治33年、漱石33歳の時文部省から派遣留学生に選ばれ満2年間ロンドンに滞在するも、留学中も神経症に悩まされる。帰国後、一高、東京帝大英文科講師となり、その頃から執筆活動を意欲的に行う。その後朝日新聞に入社、『虞美人草』、『道草』、『明暗』は全て朝日新聞紙上に発表された。明治43年、伊豆の修善寺で吐血し生死をさまようが快復、その後『門』『行人』『こころ』などを執筆するが、大正5年49歳という若さで永眠した。
(『こころ』あとがき、音楽座ミュージカル『アイ・ラブ・坊ちゃん』パンフレットより)

 
留学したロンドンで漱石が神経症を患い、その2年間の留学生活が必ずしも愉快ではなかったこと、むしろ不愉快で深く傷ついた日々だったことを知った。そんな苦しみや屈辱を伴うロンドンでの2年間のなかで、感じた人間の心のもろさや、あたたかさ、育まれ磨かれた語学感覚がその後の漱石文学に大きな影響を与えたことは、間違いないだろう。”I love you.”を「月が美しいですね。」と訳したと言われている漱石先生に、これからも折りに触れて問いて教えてもらおう。

 
「なぜ生きるかではなく、どう生きるか・・・」さ、今日も生きよう。



 
〈参考文献〉
          新潮文庫 ・坊ちゃん ・こころ  ・草枕  ・三四郎  
          講談社  ・漱石に学ぶ心の平安を得る方法(茂木健一郎著)
          音楽座ミュージカル 『アイ・ラブ・坊ちゃん2011』パンフレット


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