”Charlie and the Chocolate Factory”の作者ロアルド・ダールの「書くこと」、「物語を綴る」ことの原点は、子ども時代にあったようだ。1925年ダール9歳のとき、親元を離れ寄宿舎のある学校に通い始めた。毎日曜日の朝9時、生徒達は机に向かって1時間「親に手紙を書く」ことが“仕事“だった。それからダールの「親への手紙」は習慣となり、週に一度またはそれ以上、母宛に手紙を書いて送った。学校を卒業し、シェル石油入社、東アフリカに勤務していたときも、その後も手紙を書き綴った。9歳から母親が亡くなるまでの32年間続いた手紙を書くこと、自分の身の回りのことを伝える習慣は、彼の書くこと、物語を綴ることの原点になっているのは間違いないだろう。素敵なのは、ダールの母親がそれら32年分のダールからの手紙をこっそり集めて、大切にとっていたこと。ダールがそれを知ったのは、母親が亡くなってからのこと、600通もの手紙をきちんとグリーンのテープで年代ごとにまとめ、整理していた。
そのように書くことが日常だった彼だけれど、学校の評価は芳しくなく彼が通っていたレプトン校の通信簿には「まともな文章を数行書くことさえできない。」という評価、「自分の書きたいことの正反対を書こうとして、これほど意地を張る生徒もめずらしい。自分の考えを整理して書き留めるということが、不可能のようだ。」とも書かれたというから、人生どうなるかわからないものだ。
さて、ダールが“チョコレート工場の物語”を思いついたのは、ダールがレプトン校に通っていた頃のこと。寄宿舎に、イギリスの老舗チョコレートメーカー・カドベリー社から、各自に箱に詰めた12個のサンプルチョコレートが送られてきた。それぞれに違うフレイバーや形のカドベリー社の新製品(新発明!)のチョコレート!残りの1個は馴染みのチョコ。番号が書かれたチョコに、お気に入り順に番号をつけ更に各チョコレートにコメントを書くのがダール達のミッション。箱に入った12個のチョコレートを丸ごと食べられるご褒美!これは13歳〜18歳の寄宿舎にいる生徒にはたまらない魅力だった。「そうか、チョコレート工場には発明室があるんだ!」ダール少年は、サンプルチョコを食べながら知る。材料を混ぜたり、フレーバーを加えたり・・・新チョコレートの研究、発明?!ロアルド少年の想像はふくらみ・・・「チョコレート研究/発明室」で、チョコレートの研究、発明をしている自分を想像、すると!この世に信じられないほどのおいしーーーいチョコ!!を発明!廊下を猛ダッシュで社長室に向かい、「Mr.カドベリー!ファンタスティックなチョコの発明に成功しました!」そのチョコをひとくち食べたMr.カドベリーは、「これはミラクルだ!間違いなくヒットする!世界制覇も夢じゃない!」と早速商品として販売、発明者である彼の給料は2倍が約束された・・・
と愉快な想像は広がった。
それから35年後、少年時代の「チョコレートの思い出」と「愉快な想像」が蘇り、”Charlie and the Chocolate Factory”の物語が生まれた。最初は、5人のダールの子ども達に毎晩新しいお話を作って聴かせたことから。子ども達から「きのうのお話の続きを聞かせて」とせがまれるお話もあり、そうして彼の第1作目である『おばけ桃が行く』を書くことにし、楽しかったので続けて『チャーリーとチョコレート工場』を書いた。
1964年、ダール48歳の時“Charlie and the Chocolate Factory”は、アメリカで初出版された。発売直後から、注目を集めたわけではなかったが、その後アメリカでの売り上げは翌年から毎年増え続け、ダールは子どもの本のスーパースターの地位を約束された。ロアルドダールの作品は、世界中の子どもに愛されており、42カ国語に翻訳されている。
さて、ダールをこの作品に向かわせたのは無類のチョコレート好き、ということに他ならないだろう。何せ一日に4枚の板チョコを食べていたというから・・・こんなことまで書いている。
「わたしが校長ならば、
歴史の先生には辞めてもらい、
代わりにチョコレートの先生を
採用する・・・」(「ダ」ったらダールだ! 柳瀬尚紀訳 より)
英国・グレードミデッセン村“Roald Dahl Museum and Story Center”に足を踏み入れるとダールの息吹を感じる。小さな村の小さな執筆小屋に籠もり、来る日も来る日も物語を書いていた。そこにいると、物語はいいな〜 本はいいな〜ということをしみじみ感じる。
物語とチョコレート、どちらも心にいいに違いない・・・
〈参考文献〉
・”Boy Tales of Childhood” Roald Dahl著
・ 『ダールさんってどんな人?』クリス・ポーリング著 灰島かり訳
・『「ダ」ったらダールだ!』ウェンディ・クーリング編 柳瀬尚紀