何年も気になっていた建物があった。そのガラス張りの洒落たデザインのコインライドリーの建物もさることながら、そこの脇に植えられている植物に引き寄せられ、散歩の度に立ち止まっては眺めていた。その度に、伊ミラノから仏アルルへ電車の旅をした際に途中下車したモナコのオリーブの木々を思い出させてくれるのだ。遠目に見ては、こんな粋なコインランドリーを誰が発案し設計したの・・・?と首を傾げていた。
そんな風に遠くから眺めて憧れていた私が、ひょんなきっかけから、このコインランドリーによく行くようになった。美味しいコーヒーや季節の飲み物を飲みに、ipadを持って書き物をしに、買い物の帰りに母を連れて、本を買いに・・・そう、このコインランドリーにはカフェがあり、座り心地の良い椅子とテーブルがある。大きなガラス越しに目に飛び込んでくるのは、緑いっぱいの公園。はぁ、落ち着く・・・
実際に洗濯をしたのは、3度ほど。コインランドリーで洗濯をする習慣がないもので。1回目葉シーツなどの大物洗い、2回目は雨の日の乾燥機を使い、そして3回目は前述したモナコのオリーブの木々を一緒に眺めた友人を連れてクッションを洗いに。そこにある業務用の大きな洗濯機や乾燥機、洗濯カゴも全て統一感があり美しく、しかも機能的。使うのが嬉しくなった。そして、待っている間、洗剤の香りに包まれるのも心地よい。
匂いや感触が遠くの記憶を呼び覚ますことがある。私は、乾燥機から乾きたてふんわり仕上がった、まだあたたかい洗濯物を手にした時、米ペンシルバニアの大学の寮の洗濯機で洗濯していた時を思い出した。洗濯物を抱えて地下のlandromatに行くと、その頃仲良くしていたPamによく出くわした。洗濯機が回っている間、彼女との他愛ないおしゃべりが楽しくて。話しながら、時々彼女は歌い出した。当時19歳だったジンバブエ出身の彼女の、ソウルフルな歌声に魅了された忘れられない洗濯の思い出。Mary J. Bridgeを知ったのも、Usherを知ったのも、Pamのおかげ。彼女が教えてくれた。
そう、私が遠くから眺めていたこのコインランドリーによく行くようになったのは、ここを発案し設計施工したのが、親しくしていた教室の卒業生だと知ってから。ちょっとしたきっかけから、数十年ぶりに再会し、おしゃべりの中からそこのことを知った。このコインランドリーができたのはすでに6年前のこと。「今頃何を・・・知らなかったんですかーー?!」と叱られた。
そして、挽回するように通っているここ数ヶ月。店内にあるcafeのアフォガードも、カフェラテ・ヘーゼルナッツフレーバーもお気に入り。季節ごとに提供されるドリンクも、ワクワクする。カップも、それぞれの素材のバランスも、1つ1つがよく考えられていてセンスが伺われる。
これまでの、私のコインランドリーに対してのイメージを小気味良く覆してくれたこの場所。ここのおかげで、面倒だと感じていた日常の家事の1つである洗濯をする時間が、心持ち素敵な時間になった。ここ数ヶ月は、環境に配慮しているかどうか確かめながら洗剤を選んだり、お気に入りの柔軟剤の香りを吸い込んだり、洗濯物の色合いを考えながら干したり・・・家での洗濯も何だか楽しくなってきた。
そして私は洗濯が好きになった。